ライカ!〜星野源 『YELLOW DANCER』より“Week End”と“Snow Men”編〜

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  星野源の“Week End”と“Snow Men”が好きなら次に聴くべき5曲

新しい音楽に出会うきっかけはいろいろありますが、その1つに「好きな曲に似ている」=「Like a 〜」というものがありませんか? 自分の好きなアーティスト、曲を取り上げて「◯◯っぽい曲」「◯◯が好きならハマること間違いなし!」と言われると、本当に? と思いつつ、ついつい気になってしまうはず。今回は先日リリースされた星野源『YELLOW DANCER』の収録曲から“Snow Men”と“Week End”を取り上げ、その◯◯っぽさを何故そう感じるのか、を説き明かしつつ、◯◯っぽい曲、つまりライカ! な曲を紹介していきます。

 

星野 源 – Week End【星野源と聴く試聴動画】

 

 

「辛いからこそ、何もかも忘れようよ!」という黒い多幸感

星野源はインタヴュー中にブラック・ミュージックに対するリスペクトを多く発言していますが、いまいちピンとこない人も多いのではないでしょうか? 一口にブラック・ミュージックと言ってもマイケル・ジャクソンのような超大スターからプリンスのような変態まで、歴史を作ったアーティスト達のリズムやサウンドは多種多様です。その中でもこの“Week End”にあるブラック・ミュージックはずばり「黒い多幸感」が溢れる70年代のヒットチャートです。

ブラック・ミュージックの歴史には常に黒人差別という暗い社会問題が背景にありました。彼らは常に訴え、常に闘い、そして常に踊り続けました。時にそれはヒップ・ホップという強烈なメッセージ性を伴うこともありますが、往々にして彼らは「もう辛いとか、訴えるとか、現実を忘れてとにかく踊ろうよ」という現実逃避を歌にすることがあります。背景に哀しみがあるからこそ、意味のない歌詞を多幸感溢れる曲で歌い上げる──その究極のナンバーがEarth, Wind & Fireの“September”です。9月に出会った恋人と12月に別れたことを回想するというありきたりな歌詞ですが、美しい4つ打ちのダンス・ナンバーにほんの少しだけ哀愁漂うメロディが入っているからこそ背後にある「辛さ、哀しみ」が浮き彫りになって泣いてしまう。そんな悲しい曲は星野源が死の境地から脱出しとにかく<今を踊る>と歌う“Week End”と同じ「黒い多幸感」かもしれませんね。

 

Earth, Wind & Fire  “September”

 

 

ブラック・ミュージックに笑いあり!

この多幸感を上手く日本語で表現しているアーティストといえば、お笑いとブラック・ミュージックを融合するレキシだと思います。彼は歴史上の人物をネタにした歌詞を何度も何度も繰り返し、ライヴになると10分以上に渡って延々と演奏し「まだ続くのか(笑)」と観客を爆笑の渦に巻き込みます。私が思うに、これは同じネタを繰り返すお笑いの技法「天丼」と、10分以上に渡る演奏によって宇宙を表現しようとする「P-FUNK」(突然宇宙なんて何言っているんだ、と思うかも知れませんが、70年代後半の黒人達は本当に宇宙を表現しようと何十分に渡る長尺の曲を演奏していました)の融合だと思います。

星野源のライヴも120%の完成度で曲を表現する演奏陣に囲まれていながら、MCの途中で「ちょっとウンコ行ってくる!」と空気をぶち壊して本当にトイレに行きます。感動した雰囲気が漂うアンコールなのに「どうもーー!ニセ明でーーーす!」とまさかのモノマネでカバーを歌います。レキシと同じ「音楽とお笑い」の融合を感じさせるのですが、星野源は特に下品なお笑いが好きです。それは言わずもがな彼が変態だから。星野源の持つ変態性は音楽というフィルターを通すことによって美しさへ昇華されるのですが、お笑いとなるとその変態性がそのまま露呈されてしまう。だから彼は下ネタをオブラードに包み込みません。綺麗なライヴをするとつい下品なネタで台無したいと思う、涙を流しているお客さんを見るとつい笑わせたいと思う。そうした「あまのじゃくな笑い」が彼の特徴なのではないでしょうか。

レキシの代表曲“きらきら武士”も途中から「あれ?これ、“武士”って言ってる?それとも“プッ〇ー”って言ってる?なんでくだらない下ネタを暗喩してるの(笑)?」と思わず笑ってしまう歌詞ですが、このくだらない下ネタの歌詞でウケを狙おうとしながら、軽やかな金管楽器がファンファーレのように鳴り響く4つ打ちのダンスナンバーの融合も、星野源に通じる「笑える多幸感」かもしれませんね。

 

レキシ / きらきら武士 feat. Deyonna

 

 

日本の“Week End”と海外のthe Weeknd

決してダジャレを言いたいわけではありませんが、“Week End”という曲名から思わず思いついたアーティストは流星のごとくアメリカのヒットチャートに現れたthe Weekndです。星野源が1stアルバム『ばかのうた』をリリースした同じ2010年にThe Weekndは突如インターネット上に音源を公開し、2015年には2人揃って自身最高傑作・最高売り上げとなるフルアルバムを出しました。このデビューからヒットまでの流れを見ると、「インディーシーンからポップミュージックへの飛翔」は似ている点があるだけではなく、音楽的な変化も似ています。当時、星野源が弾き語りを中心にパーソナルな感情を歌にしていたようにThe Weekndはトリップ・ホップと呼ばれるドラッグを使った幻覚症状(トリップ)をヒップホップ的なリズムに乗せて、内省的な世界感を表現していました。そして彼らの人気が上昇すればするほど音楽は「マイケル・ジャクソン化」していくのです。“SUN”がマイケルへのリスペクトを喜びで伝えたようにThe Weekndの新曲“Can’t Feel My Face”はマイケルへのリスペクトを哀しみで伝え、米ビルボードチャートで堂々の1位を記録しました。そして偶然なのか必然なのか、彼らには「Weekend」をもじった名前がついているのです。

 

The Weeknd “Can’t Feel My Face”

 

 

そもそも星野源が影響を受けた「ねちっこい」ブラック・ミュージックって何??

 

星野 源 – Snow Men 【MUSIC VIDEO】

 

さぁ、お次は“Snow Men”のライカを考えましょう! この曲が影響を受けたブラック・ミュージックはずばり、2000年初頭にネオ・ソウルと呼ばれる新たなジャンルを切り開いたディアンジェロでしょう。ルーズなキックとスネアに酔ってしまうビート感覚と、耳元で囁くようなボリュームで繊細な音色を奏でるディアンジェロの音楽は、“Snow Men”にある「セクシーな夜のベットシーン」という要素と近い物があるのではないでしょうか?

 

D’Angelo – Feel Like Makin’ Love

 

 

では、「YELLOW DANCER」の黄色ってどういうこと??

ネオ・ソウルにおいて非常にハードルが高いところは、日本語という言語の壁です。黒くてグルーヴィーなリズム感をそのまま日本語で歌うと、相性が悪かったり、逆に英語っぽくなりすぎて、ぎこちなくなるのは否めません。しかし、ネオ・ソウルと日本語のズレを臆することなく、そこへ真っ正面から挑もうとする人が星野源です。彼が一つ一つの言葉を丁寧に歌い、グルーヴィーなサウンドに流されることのない姿を見ると、まるでネオ・ソウルを歌謡曲や四畳半フォークのような和の雰囲気で歌い上げている印象を感じてしまいます。

この「ネオ・ソウルと和の雰囲気」を上手にブランディングしようとした人物が過去にもう1人います。それは椎名林檎の兄として知られるR&B系シンガーソングライター、椎名純平です。ディアンジェロがネオ・ソウルの名盤『Voodoo』をリリースした2000年、ほぼ同時代にデビューした彼はネオ・ソウルのテイストを日本に取り入れた第一人者と言っても過言ではないでしょう。ソウルフルな歌声、ねちっこく響くドラムのスネア、不穏な夜の世界感の中央には、美空ひばりや来生たかおなど日本の歌謡曲やポップ・ミュージックの影響を受けた和の歌詞がありました。黒いリズムに黒い歌詞は乗せない、むしろ黄色い日本語だからこそ作れる世界に挑もうとしている両者はまさに「YELLOW DANCER」といえるでしょう。

 

椎名純平 ”世界”

 

 

ちなみに、当時の椎名純平のギタリストは、現在星野源のバックで弾いている長岡亮介でした。彼は初めてギタリストとして椎名純平に起用され、その後、東京事変に加入し、現在は星野源のバックギタリストとなる──。この長岡亮介という人物の文脈だけ見ても、星野源と椎名純平の15年に渡るルーツは繋がっているのかもしれませんね。今回は星野源の“Week End”と“Snow Men”を聴いて連想した曲を紹介してきましたが、音楽を聴くポイントによって、時代や国を問わず、様々な音楽との繋がりを見つけることができると思います。ライカ!が、さらにいろいろな素晴らしい音楽と出会うきっかけになりますように。

         (野口 誠也