就職活動生よ、これが音楽業界だ。〜ライヴPA編〜<後編>

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就職活動生よ、
これが音楽業界だ。

~ライヴPA編~<後編>

 

前回のアーティストマネージャー編に続き、今回はライヴPA編。

「チームサカナクション」としても紹介され、KANA-BOONBOOM BOOM SATELLITESOGRE YOU ASSHOLEなど様々なミュージシャンのライヴPAを担当し、Acousticという音響会社に勤める、佐々木幸生さんにお話を伺うことができた。

音楽業界で働きたいと考えている人、今何かに打ち込んでいる人、音楽がとにかく好き! という人にも、ぜひ読んでほしいインタヴューです。

 

「就職活動生よ、これが音楽業界だ。~ライヴPA編~<前編>」

も合わせてご覧ください!



取材・文/及川季節畠山拓也

撮影/畠山拓也

 

音に出る人柄
~全体的な音像がその人の出してるもの、持ってるもの~

ーー2014年のフジロック、WHITE STAGEでOGRE YOU ASSHOLEを初めて観て、今まで体験したことのない音で衝撃を受けたんです。ライヴで「かっこいい!」と思うのが、サカナクションやOGRE YOU ASSHOLE、BOOM BOOM SATELLITESだったり、佐々木さんがPAをされてるライヴが多くて。

 

佐々木幸生(以下、佐々木)「ありがとうございます。けっこう女性ウケはいいんですよ(笑)」

 

ーー私は佐々木さんの出す音が好きなんじゃないかって思ったりするんです。なので、PAの方の特徴や個性って音に出てくるものなのかな、と考えていたのですが。

 

佐々木「だいたい有名なエンジニアの人達はそれぞれ自分のスタイル、特徴がありますよね。あの人の音だなっていうのが。何がどうっていうより、全体的な音像がその人の出してるもの、持ってるものっていうことになると思うんですよね」

 

ーーそこもアーティストに信頼されてオファーされるということでしょうか。

 

佐々木「まあ、最初は縁で繋がったりするんですけど、やってるうちにだんだん好きになっていったりとか」

 

ーーサカナクションが一緒にステージを作り上げるスタッフを「チームサカナクション」として紹介していました。もしそれがなかったら、もしかしたら今も私はPAというお仕事を知らなかったかもしれないな、と思うんです。「チームサカナクション」として紹介されて、お客さんの反応などはありましたか?

 

佐々木「そうですね、『チームサカナクション』として一郎くんが紹介してくれたのもあって、いろんな会場で声をかけられたりもするし、自分の音が好きで聴きに来てくれる人もいるようになったり。とはいえ、『チームサカナクション』というのはそれぞれがプロフェッショナルの集まりで、面白い?人達が集まってそう呼ばれてるわけで。他に行ったら当然『チームサカナクション』の人だっていうわけではなくて。でも、おかげさまで自分達の仕事の内容を理解してもらえたりだとか、いろんな会場で声をかけてもらえたりとか、そうするとやっぱり気は抜けないですよね。頑張んなきゃなって思いますよ、常に」

 

ーーPAをやっていて、最高にうれしい、やりがいがある瞬間はどんな時ですか?

 

佐々木「アーティストとお客さんと自分が一体になる瞬間がある。その瞬間ですよね。PAはだいたい後ろのほうでお客さんの背中から観てることが多いので、自分から見ると自分がいてお客さんがいてステージがあってっていう。その自分とお客さんとアーティスト、みんな繋がる瞬間っていうのが何回かあるんです。そんなに多くはないんですけどね。その瞬間が自分も楽しいし、お客さんもアーティストも嬉しいっていう。その3つが重なった時は、楽しいというかやっててよかったと思う瞬間ですよね。みんなと同じ時間を共有出来たというか。めったにないです。めったにないんですけど、常にそれを目指してます」

 

ーーグルーヴというか?

 

佐々木「なんて言うんだろうね、一体感っていうかね」

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(PA機材参考画像)

 

忘れられない仕事
~自分達がやりたかったことが実現した「RAINBOW 2000」~

ーーそれでは今までのPAのお仕事の中で、1番忘れられないお仕事、ライヴはありますか?

 

佐々木「そうですね、たくさんあります(笑)。忘れられないもの……96年に富士山の麓でやった、『RAINBOW 2000』(※3)っていうイベントがあって、フジロックの前年ですね。日本で初めて、野外のテクノフェスティバルっていうのがあって、その時にUnderworldとかが来たんです。スタッフはほんとにコアな人達だけだと20~30人くらいしかいなかったと思うんですが、当日開けてみたら1万2000人とかお客さんが来てて、もう大パニック(笑)。その時、その日本で初めてのフェスでPAをできたっていうのは、もうそれはすごい、1番覚えてますねー。自分達がやりたかったことが実現したっていう。実はその時、自分でもテクノユニットやってて出てたんです。めちゃくちゃ忙しくてね(笑)」

(※3)RAINBOW 2000

1996年8月10日に日本ランドHOWゆうえんち(現:フジヤマリゾートぐりんぱ)で第1回目が行われた、野外レイヴイべントUnderworld、石野卓球、KEN ISHII、AUDIO ACTIVE、細野晴臣など、国内外の様々なジャンルのアーティストが出演し、日本における巨大レイヴの元祖と言われている。

 

ーーそれは忙しいですね!PAもして出演もしてって、史上初かもしれないですね。

 

佐々木「準備の段階が大変で3日間ぐらい寝られなかったかな(笑)。それが1番面白かった。PAももちろん大変だったんですけど、それよりも楽しかったほうが大きいですよね」

 

ーー私も体験してみたかったです。

 

佐々木「次の年は台風直撃で史上最悪で、天国から地獄(笑)。すごかったですね、それはそれで忘れられない。雨と風がすごくて、長靴履いてたんですけど浸水しちゃって、足がふやけちゃって、足の指とか3倍くらいになっちゃって(笑)」

 

ーーフジロックレベルじゃないですね。

 

佐々木「もうそんなレベルじゃなかったです。下が泥で田んぼみたいになっちゃって、バラしもトラックが入ってこれなくて、どうしようかって。丸1日かかって、結局下の駐車場からクレーンで吊って1個ずつ下ろす。それしか方法がなかったですね。まさに天国から地獄。雨の中丸1日かかってバラしました。

『RAINBOW 2000』っていうくらいだからほんとは2000年までやろうってことだったんだけど、その大打撃があってできなくなってしまって。石川県の白山に場所を移してやったんですけど、急速にしぼんでいった。野外は本当に天候に左右されるので」

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PAという仕事
~最終的に現場がスムーズに行くように、いろんな事務作業がついてくる~

ーー野外といえば、フジロックで毎年PAをされていますよね。

 

佐々木「会場が苗場に移った時に初めてFIELD OF HEAVENとRED MARQUEEの2つができてから、そこはずっとうちのAcousticで担当してますね」

 

ーー恵比寿のLIQUID ROOM(以下、リキッド)やUNITなどの音響機材の維持、管理をAcousticでされていると聞きました。

 

佐々木「そうですね、リキッド、UNIT、その他にも表参道ヒルズとか恵比寿のガーデンホールとかの音響管理もしています。ファッションショーの仕事もあるので。それこそガールズコレクションとかもうちで音響をやってたり。会社としては現場PAっていうのと、あとそういったライヴハウスやホール管理という感じですね」

 

ーーそういったライヴハウスやホールなどの現場以外にはどういったお仕事があるのでしょうか?例えば事務作業とかもありますか?

 

佐々木「もちろんあります。ひとつ現場があるとしたら、その前に必ず何回も打ち合わせがありますし、そのためにプランニングしなきゃいけない。舞台の図面ができたら、スピーカーをどういう配置で置くのかとか、そういう作業がもちろん事前にあります。バンドがいくつも出るイベントだったら、そのバンドのインプットリスト(※4)を取り寄せて、みんなが仕事をできるようにデータを作っていかなきゃいけない。例えば今回のフジロックとかRISING SUNとか、もうフォーマットが決まってるのはいいんですけど、7月にあった『SAKANATRIBE』は、3月くらいから打ち合わせをしていて、2回下見に行って。それで事前に同じスピーカーを持って行って音を出してみて、苦情が出ないか、どのへんの音量まで出したらどこまで聴こえるのかっていうのを全部チェックして。準備期間で半年くらいはかかる。最終的に現場がスムーズに行くように、いろんな事務作業はついてきますね」

 

(※4)インプットリスト

ステージで使う楽器をミキサーのどこのチャンネルに入れるのか、どういうマイクを使うのかなどが記してある表。

 

ーー現場でも荷物を積み込んで下ろして、セッティングして……

 

佐々木「終わったらパッキングして、最終的に倉庫に戻ってきて下ろして片付けるまでがフェスですね(笑)」

 

サカナクション初主催 野外イベント「SAKANATRIBE」

 

 

観るのもPAとしても好きなフェス
~フジロックはプロフェッショナルが仕事をしている場所~

ーー1番好きなフェスや会場、ライヴハウスはどこですか?

 

佐々木「フェスだったら日本ではフジロックが1番面白いと思いますね。RISING SUNも面白い。北海道という場所がいい、ものすごいだだっ広いところでやるんです」

 

ーーそれはPAをやる側として楽しいんでしょうか?

 

佐々木「PAとして、というかもう雰囲気が(笑)。あとフジロックの場合はほんとに自分が好きなアーティストが出たりとか、観られる場所がいっぱいあるので好きです」

 

ーーフジロックが1年の中の楽しみだったり?

 

佐々木「そうですね、楽しみっていうかもはやルーティーンになってますね。また来たなこの季節がーって」

 

ーーライヴを観に行ける時間はあるんですか?

 

佐々木「フジに関しては僕は夜の担当なので、昼間は基本寝てますけど13時とかには起きちゃうんで、それから観に行ったり。あと、フジロックの何が良いかというと、あそこはほんとにプロフェッショナルが仕事してる場所なんで、D.A.N.みたいに初めてフジに出るようなバンドはこんな場所でやるのも初めてだし、不安っていう人もいると思う。そういう人が来たとしても、もうなんにも問題ないですよと、ちゃんと言える」

 

ーーそれは心強いですね。

 

佐々木「そうです、そういう役目(笑)。実際に働いてる人はみんなプロ中のプロなんで、安心してやってくださいって、自由にやってもらって。あと、海外アーティストを相手にしてるところだと、契約書っていうのが必ずあって、来日する前に必ずPDF何枚かの書類がある。照明、音響、楽屋周り、移動、そういうのが事細かく全部書いてある要求書があって、その要求に答えないといけない。機材は何をどれぐらい用意して、とか。まあ日本の場合はほぼ100%用意できる、実現できるんで、文句を言われることはまずないです。外国人はめちゃくちゃシビアなんで、それがなかったらやりませんてことになっちゃうこともあるんだけど、そういうのを全部的確に揃えられる。フジロックもSUMMER SONICでもそうですけど、けっこう厳しい要求があったり」

 

ーーどういった要求なんですか?

 

佐々木「音響に関しては、ミキサー卓はこの機種を用意してくれとか、そういう細かいところですよね。モニタースピーカーのメーカー指定だったり。なかったらこれじゃだめかっていう提案をこっちからしたり。借りて来るんでいくらかかりますよって言うと、じゃあこっちでいいですみたいな、そういうこともある(笑) 」

 

ーーそういうやりとりもお仕事のひとつなんですね。

 

佐々木「そう。まあ海外アーティストを相手にするなら、ある程度の英語の理解もなきゃいけない、必要にせまられてやるしかないというか。何が書いてあるかを理解して、見落としてたりしたら大変なことになるので」

 

ひとつのことを突き詰める
~ちゃんと辿り着けるんだなって思いました~

ーーPAとして、自分が音を出すのが楽しいと思う場所はどこですか?

 

佐々木「やりやすいっていうか、リキッドは本当に自分のホームというか、ひとつの基準になってます」

 

ーーサカナクションのライヴDVDのマスタリングを、リキッドで行ったと聞きました。

 

佐々木「そうです、マスタリングはしたことがなかったんですけどリキッドでやらせてもらって。スタジオでやっても勝手が違うのでわかんないなと思って。いつも鳴らしてるところ、自分のホームでやったら大丈夫かなって、逆に来てもらった。自分が行くんじゃなくて(笑)」

 

サカナクション/SAKANAQUARIUM 2015-2016“NF Records launch tour”-LIVE at NIPPON BUDOKAN 2015. 10. 27-

 

 

ーー本当にライヴの興奮が蘇りました。

 

佐々木「上手くいったと思いますね。マスタリングもやらせてもらったし、PAをやってるんだけど、それを突き詰めていくとそこからいろんなことができるというか、それこそ海外に行けたりするわけじゃないですか」

 

ーーそれはアーティストのツアーですか?

 

佐々木「そうです。仕事が忙しくて、ヨーロッパに行ってみたいと思ってたけどなかなか行けなかったり。でも仕事を突き詰めていったら結局、AUDIO ACTIVEやBOOM BOOM SATELLITESのツアーで、結果的にヨーロッパに行けた。あと自分のバンドで出演してみたりとか、それもPAやりながらの話ですし。PAエンジニアだけど、録音した音を聴いてもらって、『レコーディングやってみる?』って声をかけてもらったりとかさ。ひとつのことだけど、すごい突き詰めていけば廻りまわって、結構いろんなことができる。そこまでちゃんと辿り着けるんだなって思いましたね」

 

ーー根気よく続けていって、突き詰めていくということが大切なんですね。それでは最後に、PAや音楽業界を目指すみんなに一言お願いできますか?

 

佐々木「入ってみると思った以上に厳しい世界だと思うので、本当に情熱がないとやっていけない。好きじゃないとやっていけないし、好きなだけでもやっていけない。さっきも言ったようにちょっとしたセンスがないとやっていけない。やっぱり普段からそういう感性を磨いていけばいいんじゃないかと思います」

 

ーーいろんな音楽を聴いたり……

 

佐々木「そう、ライヴを観に行ったり。音楽だけじゃなくて全般的ないろんな感性、美術館を回ってみたりとか。そうすればそういう感覚がどこかに活かせるかもしれない、自分を表現する時にね」

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編集後記

あるインタヴューで、サカナクションの草刈愛美(Ba)が、「PA卓に佐々木さんがいると安心する」と答えていたのを思い出した。たくさんのミュージシャンから信頼され、数々のステージを担当しているのは、もちろん佐々木さんのプロフェッショナルな仕事であると思うのだが、その佐々木さん自身の人柄でもあるように感じた。

「一緒に仕事をしたい人は?」という質問に、「ちゃんと挨拶ができる人」とおっしゃっていたが、これはきっとPAや音楽業界に限らず、どんな仕事にも1番大切なこと。そして、突き詰めていったらいろいろなところに辿り着けた、という言葉は、音楽にずっと情熱、愛情を注いできた、佐々木さんだからこそ言える言葉だと思う。そして、その言葉はきっとすべての仕事に共通して言えることなのではないかと感じた。

この記事が、音楽業界を目指す、音楽を愛して止まない読者の皆様の1歩を踏み出すきっかけとなりましたら幸いです。また、今、仕事であったり何かに一生懸命取り組む人達の力になるのではないかと思っています。佐々木さん、普段知ることができない、興味深く大切なお話の数々を本当にありがとうございました。

 

Acoustic HP

http://www.acoustic.co.jp/

 

 

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