Christopher Owens 『Chrissybaby Forever』「例えこの愛が届かないとしても」

2015年11月20日

クリストファーの画像 のコピー

Christopher Owens
『Chrissybaby Forever』

たとえこの愛が届かないとしても

カノン進行は最も多くの人に受け入れやすい作曲法であると知られている。AKB48の“恋するフォーチュンクッキー”しかり、Oasisの“Whatever”しかり、世界中のヒットチャートで最も頻繁に使われているコード進行だ。しかしアメリカ出身のChristopher Owensの手にかかれば誰にも届かないひとりよがりな音楽に変化する。例えこの愛が多くの人に届かないとしても、愛する一人にだけ届けばいい──そう思わせる程、彼は大衆的な音楽を偏愛に満ちた音楽にさせるマジックを持っている。
2009年の年間ベストで洋楽雑誌が1位に選定した彼のバンドGirlsが『Album』を発売して6年経ち、2012年にGirlsが解散して時は2015年。メディアが彼をドラッグ中毒者だった経歴を持つクレイジーなアーティストとして、また新興宗教団体チルドレン・オブ・ゴッドの家族に育てられたカルト・ミュージシャンとして期待していた頃から年月は経ち、多くの人が彼の名を忘れていた頃に突如新作『Chrissybaby Forever』をネット上でリリースした。
彼の最大の音楽的魅力は、50年代以前のポップスと70年代の英国ガレージを鳴らしながら、時折カルトやドラッグをモチーフにした歌詞を歌うスタイルにある。日本のバンドで言うならば、今年リリースした踊ってばかりの国の『SONGS』と音楽性が近いだろう。甘美なポップ・ミュージックとノイジーなギターがとろけあう、傷つきやすくて、儚い音楽なのだ。
しかし今作のChristopherはノイジーなギターが影を薄め、以前に比べ格段にポップな一面を開花している。大胆なカノン進行を使いながら最愛のパートナーと安定した生活を見い出したかのように“I Love You Like I Do”で偏愛を歌う。彼と交友のあるハンナ・ハントのアイディアによってヴォーカルはChristopherではなく女性の声で歌い、<あなた>をChristopher自らと設定してこう歌詞に綴る。<なぜ、私があなたを愛しているのか不思議に思っている/なぜなら、あなたが一日中光り続ける太陽だから>と。自分で自分を好きな理由を女性に歌わせる偏愛な歌詞が弱々しいトレモロのギターと重なることで、ポップなのにパーソナルに閉ざされた内省的音楽に聴こえる。カノン進行を用いりながら、エゴイズムに満ちた表現をしているのだ。
例え世界中でたった1人のために作られた音楽だとしても、この愛に満ちたポップスがたった1組のカップルの不安定な愛を癒やしてくれるのであれば、この音楽の宿命は果たせているのだろう。

野口 誠也

 

※ピンクの星内の漢字は、扱う音楽から感じる印象を漢字一文字で表しています。

 

Christopher Owens 公式 HP

http://www.christopherowensonline.com/

 

Christopher Owens – Full Performance (Live on KEXP)

 

 

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