The Libertines 『Anthem For Doomed Youth』(邦題:リバティーンズ再臨)
「約束の地アルカディアへ」

2015年11月19日

リバ

The Libertines
『Anthem For Doomed Youth』
(邦題:リバティーンズ再臨)

約束の地アルカディアへ

英国の青年ピート・ドハーティ(Vo&Gt)とカール・バラー(Vo&Gt)は、階級制に苦しむワーキング・クラス・キッズ(労働階級の若者達)の心を、音楽の力で理想郷アルカディアへと連れて行くことを夢見ていた。その為に彼らが組んだバンド、The Libertines(以下、リバティーンズ)は2000年代前半のUKロックシーンのトップに立ち、若者のカリスマ的存在となった。
彼らはいつだって、憎しみや悲しみや弱さのような、本来人が隠したがる心の敏感な部分を曝け出して正直に歌う。ピートとカールが歌う暗く激しい感情は誰の心にだって存在しているし、特に不運な生活を余儀なくされるワーキング・クラス・キッズのような者の心に強く表れやすい。2人が不運なキッズの心にある鬱々とした感情を、ロマンを込めた詩的な言葉とメランコリックかつダーティーなメロディに乗せて歌い、芸術的に表現することで、現実においては不運なキッズの生活もネガティヴな感情も美化されて、なんだか格好いいものに感じる。そうやって、ワーキング・クラス・キッズに夢を見せたからこそ、リバティーンズはUKロックのトップに立ち、彼らの曲は全てキッズのアンセムと成り得たのだ。しかし彼らは2004年にピートのドラッグ中毒によって、空中分解してしまった。それから10年の時を経て再結成した彼らの3rdアルバムが、『Anthem For Doomed Youth』(訳:不運なキッズへの賛歌)だ。
本作のサウンド面においては、1stや2ndの頃のシンプルなサウンドと煽り立てるような勢いのツインボーカルが生み出す衝動的で儚いものから、ミディアムテンポで音の厚みも増したノスタルジックなメロディになっており、彼らが青年から大人の男性へと成長したことに伴うような変化が感じられる。しかし、10年経って音楽シーン、そして英国の現状も大きく変わった今でも、彼らが歌うテーマは相変わらず、ワーキング・クラス・キッズの心に存在したような感情だ。その感情は大人になったリバティーンズにとっても過去のことなのにそれでも歌うことを変えないのは、今でも必ず英国、いや世界のどこかに、不運なキッズの為のアンセムを必要としている若者がいることを知っているからだ。
時代が変わっても、世の中から不幸なことはなくならない。世間の片隅で暮らし、心の中に鬱々とした感情を溜め込んでいる若者は必ずいるはずだ。そんな人達の心に寄り添う歌を歌い、現実を忘れることができるアルカディアに連れて行く。様々な紆余曲折があったものの、それが彼らの音楽の本来の目的なのだ。流行り廃りなど関係なく、今の時代の不運なキッズの為に、リバティーンズはその目的をひたむきに果たそうとしている。本作からはそんな彼らの、昔と変わらない純粋な情熱を感じる。

結城 萌奈美

 

※ピンクの星内の漢字は、扱う音楽から感じる印象を漢字一文字で表しています。

 

The Libertines 公式HP(日本版)

http://www.universal-music.co.jp/the-libertines

 

The Libertines – Gunga Din

 

 

The Libertines – Heart Of The Matter

 

 

Amazon

発売中/レーベル:Universal Music