映画『あやしい彼女』「昭和歌謡にみる生きる力」

2016年5月23日

ayashiii

映画『あやしい彼女』

昭和歌謡にみる生きる力

戦争孤児で激動の時代を女手ひとつで娘を育てるために、日々身を粉にして働いてきた73歳のおばあちゃん瀬山カツ(倍賞美津子)が、突然20歳の姿を手に入れて大鳥節子(多部未華子)として新たな人生を歩む本作。孫の翼(北村匠海)のバンドのヴォーカルとして歌手になる夢を叶え、淡い恋をしたりと初めて自分の望んだとおり人生を節子として拓いていく。節子の可愛いルックスに対して、喋りや行動に滲み出る強烈なおばちゃんの姿が劇場に笑いを巻き起こす一方で、節子の歳らしからぬ発言やお説教には、今まで生き抜いてきたカツの姿が垣間見え、言葉の力強さに涙腺が刺激されてしまう。
そんな本作の中で重要な役割を担うのが
60年代を彩ってきた昭和の名歌謡曲たちである。映画冒頭で東京ブギウギ(作詞:鈴木勝 作曲:服部良一)を腰の入ったステップで歌いながら商店街を闊歩するカツの姿は並大抵の人ができるものではない。節子として老人ばかりの商店街で行われたのど自慢大会で披露した“見上げてごらん夜の星を(作詞:永六輔 作曲:いずみたく)は芯のある通った歌声には安らぎを覚え、時が止まったようだった。中でも生放送の歌番組で歌った悲しくてやりきれない(作詞:サトウハチロー 作曲:加藤和彦)は生きていくためになんだってやってきたカツの人生の回想シーンと、この曲を力強くも透き通った歌声でまっすぐに、頬に涙を伝わせながら歌う節子の姿に、自然と涙せずにはいられない。
苦難の人生を送ってきたカツだけではなく
みんなが生きることに必死だった時代を支えた昭和歌謡の名曲たちは、スッと心に沁み込んで優しく包み込むだけではなく、挫けそうなに支えとなる強さも持ち合わせている。本編中に、節子が翼に「歌は人の心を震わせるものなんだ」と一喝するシーンがある。昭和歌謡が生まれた当時よりも街に溢れる音楽の数も多様性も増えた今日、恋愛や自分語りといった自身を歌う歌が多い中で、他人の心を震わせ、他人に生きる力を与えられる歌はどれだけあるのだろうか。今を生きる私にとっても歌が心の支えになっているのは間違いない。でもふと聴いたときに思わず涙してしまったり、ここぞというに踏ん張る力になる歌にはそう簡単に出会えない難しい時代になってしまったようにも思える。

遠藤 瑶子

 

あやしい彼女

「見た目は20歳、その中身は73歳」異色のヒロインが巻き起こす人生リセット劇。2014年公開の韓国映画『怪しい彼女』を、『舞妓 Haaaan!!!』『謝罪の王様』などの水田伸生監督がリメイクした笑って泣けるコメディ・ドラマ。73歳の毒舌おばあちゃんが20歳の姿を手に入れたことで、失われた青春を取り戻していくコメディ・ドラマ。

 

※星内の漢字は、扱う音楽から感じる印象を漢字一文字で表しています。

 

映画『あやしい彼女』公式HP

http://ayakano.jp/ 

 

出演:多部未華子、倍賞美津子 他

監督:水田伸生

脚本:吉澤智子

原作映画:「Miss Granny」(CJ E&M CORPORATION)

音楽:三宅一徳 

劇中歌監修:小林武史

 

公開中/配給:松竹