岡村靖幸 『幸福』クロスレヴュー

2016年2月6日

岡村靖幸

岡村靖幸
『幸福』

早熟から幸福へ

あえて誤解を恐れずに言えば、『幸福』は1990年にリリースされた岡村靖幸のベストアルバム『早熟』から26年後に作り上げられた第二のベスト・アルバムだ。80年代に日本のプリンスと呼ばれ、自ら早熟と呼び、幾度となく訪れた紆余曲折から26年。完全復活を遂げた彼の軌跡は、『幸福』へ辿り着いた。

もちろん今作は紛れもなく11年振りのオリジナル・アルバムであり、第二のベスト・アルバムは『OH! ベスト』である。それで私がそう推測する理由は、既発のタイアップ・ソングを多く収録しているから等といった表面的なことではなく、『幸福』の韻である「o u u u」が『早熟』の韻である「o u u u」と一致しているからである。日本語と英語の間をミックスするかのように歌い、新しいJ-POPのメロディ・リズムを発明した彼にとって、韻とは彼の音楽的な本質そのものだ。だからこそ、彼が無意識に『早熟』と韻が一緒になったというより、むしろ『早熟』を意識して仕上げている可能性は非常に高い。事実、今作に”ラブメッセージ”と彼の代表曲”だいすき”はイントロ直前のコード進行が類似しており、”愛はおしゃれじゃない”と、彼の代表曲”あの娘僕がロングシュート決めたらどんな顔するだろう”は、両者ともにギターのカッティングから始まるストレートなラブソングだ。ベスト・アルバムに収録されておかしくない彼のシングルの完成度は、2011年以降の完全復活を音楽性で証明し、『幸福』へ辿り着いた。

早熟時代、作詞作曲を自ら全て担うことで、彼の妄想を完全なる密封状態で作り上げていたことに対して、『幸福』は歌詞を西寺郷太や小出祐介と共作したり、シングルとして初のコラボレーションをしたりすることによって完成された共同作品とも言える。それだけでなく、彼の活動全体を見ても、毎年のようにバンドメンバーとツアーを共に回り、継続的に対談コラムを連載し続け、映画・アニメで合計2曲のもタイアップ・ソングを書き上げている。彼にとって2度目の青春は、彼を愛して止まないファンと、ミュージシャンと、スタッフという「家族」のような信頼関係で成立していた。だからこそ、ジャケットに描かれている親子の関係性はまさに「家族」であり、子が親へプレゼントしている柚それ自体が『幸福』というアルバムなのだ。

野口 誠也

 

性から生へ

岡村靖幸、そして彼の作る曲は、しばしば「エロい」や「変態的」という形容をされる。確かに性愛をモチーフとした歌詞や、ねちっこいヴォーカルや色気のあるダンスは彼の代名詞となっている。ただ、彼の場合、単なるエロに終わらず、代表曲“どぉなっちゃってんだよ”で<人生がんばってんだよ 一生懸命って素敵そうじゃん>と歌うように、モテたいという性の欲望の発露に対する肯定こそが本質だ。また、ライヴでの官能的なパフォーマンスと対照的な、メディア出演時のどこか所在なさげなたたずまいには思春期の少年らしさを感じる。永遠の少年性を持つ彼が歌う必死な性は、青春の酸っぱさを持っていた。

前掲曲が収録された『家庭教師』から26年。数度の活動休止を乗り越えて活動再開した2011年以降の楽曲が収録された本作は、彼の肯定の矛先が「性から生」へと拡張した作品となっている。とはいえ、性について歌っていないわけではない。<モテたいぜ君にだけに>(“愛はおしゃれじゃない”)など、他者に愛されたいというストレートな表現は本作でも軸となっている。ただ、そこで性愛について突き詰めていくよりも、その先の広く人生そのものに向き合おうとする決意が見え隠れするのだ。“彼氏になって優しくなって”で<切なくみじめだって上手に生きようぜ ただし絶対常識の範囲内でね>と歌うのを聴くと、自分の弱い心と戦い続けてきた彼だからこそたどり着いた、人生そのものを真っ直ぐ肯定しようとする意思を感じる。

ハート型の通称「ピーチマーク」をトレードマークとし、しばしばジャケットに登場させてきた彼だが、本作のジャケットでは親の視点から観た子供が描かれている。性愛の結果に生まれる「生」の象徴としての子供は、まさに彼の視線が生へと向かったことを示しているのではないか。 そう考えると近年の彼のヴォーカルの特徴である、低音での絞り出すようなシャウトは色気以上に必死な生命力を感じるし、以前は彼の色気をブーストさせるものとして機能していたファンキーなダンスミュージックのビートも、心臓の鼓動のように響く。

性をポジティブに肯定するという行為は彼が今までずっとやってきたことだ。しかし対象が性のコアな部分から広く生そのものへと向かった時、彼の歌は25年ぶりにオリコンウィークリーチャート3位を記録する大衆へと響くポップスとなったし、だからこそ、それを一言で表すなら、『幸福』なのだ。

荒池 彬之

 

岡村靖幸

1965年生まれのシンガー・ソング・ライター兼作曲家、プロデューサー。デビューからわずか3年で日本の音楽史に残る名盤『家庭教師』を1990年にリリース。それから約20年間、紆余曲折を経て、2011年に完全復活。BaseBallBearの小出祐介やNONA REEVESの西寺郷太など、数多くのミュージシャンと共演し、現在に至る。

 

※星内の漢字は、扱う音楽から感じる印象を漢字一文字で表しています。

 

岡村靖幸 公式HP

http://okamurayasuyuki.info/

岡村靖幸 – 彼氏になって優しくなって

 

 

【今後のライヴスケジュール】

岡村靖幸 2016 SPRING TOUR

4月9日(土)Zepp Fukuoka

4月15日(金)広島JMSアステールプラザ大ホール

4月24日(日)Zepp Sapporo

4月28日(木)Zepp DiverCity TOKYO

4月29日(金)Zepp DiverCity TOKYO

5月01日(日)静岡市民文化会館 中ホール

5月03日(火)神奈川県民ホール

5月05日(木)Zepp Nagoya

5月13日(金)リンクモア平安閣市民ホール(青森市民ホール)

5月15日(日)仙台市民会館 大ホール

5月21日(土)Zepp Namba

5月27日(金)中野サンプラザ

5月28日(土)中野サンプラザ

5月29日(日)新潟 りゅーとぴあ・劇場

 

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