宇多田ヒカル “花束を君に” 「彼女のために、あなたのために」

2016年4月29日

original

宇多田ヒカル
“花束を君に”

彼女のために、あなたのために。

変わり続けるために、変わらないことを約束した──2曲同時にリリースされた“花束を君に”と”真夏の通り雨”は、そんな普遍性に満ちている。両者ともに個性が強く、かつ異なった作風のため、今回は“花束を君に”に焦点を当てたい。一切の加工物を排除するかのように、抜けの良いドラムのスネア、ピアノの伴奏、バイオリン、そして宇多田ヒカルの声とコーラスといった、必要最低限の天然記念物の集まりだけで作った純度100%の編曲は、6年間に及ぶアーティスト活動休止からの復帰作にふさわしい。自然体でい続けることが最高の進化だ、と言わんばかりの力作である。
彼女のキャリアの中で比較しても、日本や欧米の音楽と比較しても、ここまで歌声に天性を感じさせる曲はないのではないか。山下達郎が、もしくはアデルでもいい、声や楽器そのものの持つ潜在的な響きを十二分に生かして作った音楽と同じように、10年後に聴いても、20年後に聴いても、リアルに感動できる。サム・スミスなどを手がけたスティーブン・フィッツモーリスがミックスエンジニアを務めた今作は、決して色褪せることのないエヴァーグリーンな音楽だ。その上で普遍的な悲しみと喜びを綴った歌詞も、新しい要素が少しずつ加わっている。2007年の曲、“Flavor Of Life”では<ありがとう、と君に言われると/なんだかせつない>と「愛される側」に立たされた人の悲しみを歌っていたが、今作では<花束を君に贈ろう/愛しい人  愛しい人>と自ら「愛する側」に立ち、授かった子どもが大人になる姿を讃えているようにも感じられる。
世間的に言うと彼女はR&Bのジャンルに入るが、“誰かの願いが叶うころ”や“FINAL DISTANCE”や、“Stay Gold”などソロのピアノ伴奏から始まる楽曲がいくつかあり、今作もそうした弾き語り調のアレンジの系譜を辿ることができるが、その中で最も強度のある楽曲だ。彼女の復帰第一作は決して派手な路線変更ではないが、それこそが確実に宇多田ヒカルの進化を証明している。

野口  誠也

 

宇多田 ヒカル
ニューヨーク州出身、1983年生まれの女性R&Bシンガーソングライター。2000年頃の日本のR&Bブームに大きな影響を与えた。日本の音楽史上、最多の売り上げを記録した『First Love』を筆頭に、オリジナルアルバム歴代売上の上位トップ2を独占している。2010年、同日付の自身のブログで年内をもってアーティスト活動を無期限休止することを発表。2014年に再婚し、翌年には男の子を出産した。2016年に音楽活動を再開。

 

※星内の漢字は、扱う音楽から感じる印象を漢字一文字で表しています。

 

宇多田ヒカル 公式HP

http://www.utadahikaru.jp

 

 

配信中/レーベル:Universal Music LLC